■武内光仁■

〈花札の予言〉

 第37回新象展で新象展賞やニッカ絵具賞、安田火災美術財団奨励賞を受賞したこの作品も、かなり大きく、迫力のあるものとなっている。
 横8メートル余、縦2メートル余という大画面。それだけでも十分なのだが、ここに提示された絵画空間が実際以上に大きく感じられるのは、この作家独自の意匠が施されているからにほかならぬのである。
 水平の線と垂直の線が正確に画面を分割する、という構成の画面。そこには、障子の桟のように矩形、つまりは長方形のコマが幾つも形づくられ、その矩形は三種類に分かれている。
一つは赤い矩形。これには、県立郷土文化会館賞展で大賞を受賞した「砂漠での『スゴロク』」(1993年)を撮影したカラー写真の複写がはめ込まれている。
 青の矩形には矢印が描かれており、しかも、その矢印は方向が正反対を向いた二種類があり、陰と陽の関係、表と裏の反転などを暗示しているようでもある。
 残る一種類の矩形。これがこの作品を特徴づけているのだが、そこには“鏡”がはめ込まれている。鏡は当然、会場の柔らかい照明を受けて壁面に並ぶ作品群を展示している空間、それを鑑賞する人間の姿や、その奥に秘められた心、魂をも映し出す。
 障子の桟を連想させる形の重なりが、ある種、日本風の構成的で静的な味わいを生む。その静的な世界に動きを与える、前景のゆらめきながら上昇する矢印や量としての膨らみを秘めたまろやかなフォルム、そして、鏡に映し出された人間の動き…。
 現実と非現実。実在する世界と実在しない世界。その接点にいるこの作家が、見る側の私たちを奇妙な幻覚に誘い込むことに成功したのは、前衛的な実験的な試みへの強い意欲と独自の意匠が効果的だったからではないか。

 作品解説・小松康夫(高知新聞編集委員1995年当時)

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