■武内光仁■

〈砂漠での「スゴロク」〉

 著名な評論家でもあった故・岩崎吉一東京国立近代美術館次長が審査を担当した第12回県立郷土文化会館賞展フィナーレ展にも出品されたこの作品は、最優秀の“大賞”を受賞している。
 縦が1.8メートルで、横4.61メートルという巨大な画面。これを鑑た岩崎氏は、「これだけの大きさの画面を密度ある構成にまとめるというのは、よほど力がないとできない」と高い評価を与えている。
 ここに描かれている主要なモティーフは、あらゆる場所に潜んで不気味に目を光らせている賽の目だ。そして、画面全体に蠢く、得体の知れないものの存在。
 無数のサイコロがモザイク状に組み合わされた画面は、ある種の構成的な要素を持ちながら、時にはシャープに、時には重厚なまでの肌触りで、何事かを語り掛けてくる。そして、すべてを見通す絶対的な存在を暗示する巨大な〈目〉を連想させる形態が浮遊…。
 人間を連想させる奇妙なフォルムを持った蠢く“もの”と砂漠との対比から、人生スゴロクの中で運命に翻弄される人間の姿を読み取る人も多いのではないか。
 至る所に落とし穴が待ち受けており、一瞬先はまるで分からない。そして、一瞬の間に変化する運命の恐ろしさ。平凡に、平穏無事の人生を送ることは、簡単には見えても実は、大変難しいのかもしれない…。
 作家は、その“来し方”から逃れることはできぬ、作品は作家の“来し方”の反映でしかないとすれば、この作家はひょっとすると、これまでかなり苛酷な運命に見舞われているのではないか。
 構成力に優れた作家の様式化への意欲なども見事なまでに定着されたこの作品は、一人の男の内面的な世界を描いたのではなく、むしろ人間そのものを哲学的に、あるいは、宗教的に、目に見える形で提示しようとしたのかもしれぬ。人間の生涯を一枚の絵に凝縮すれば、こう描くしかない、という極限の思いが読み取れる力作だ。
 高知県立美術館の収蔵作品。

 作品解説・小松康夫(高知新聞編集委員1995年当時)

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