■武内光仁■

〈虚無の焦点〉

 この作品の“特徴”の一つに、画面が殊の外フラットであり、つまりは意図的に平面的な画面を構成しようとした、ということがありそうだ。そして、そのフラットな画面が装飾性に富んでおり、そこには不思議な奥行のようなものが感じられる、ということでもある。
 ややいびつで、奇妙な実在感を与えられた〈輪〉の内側にある黄色いコマ。そこには、それぞれに微妙に異なるさまざまの形態が、まるで斑紋のように刷り込まれている。しかし、残りの赤い部分には何も描かれていない。その、一種日本的な色彩と鮮烈な対比…。
 ここに配置されたすべての“斑紋”は人間のようでもあり、蠢く虫のようでもある。言い換えると、蠢く虫のような人間が描かれている、ということなのかもしれない。そして、格子の前には、軟らかなカーブを描いた物体が横たわっている。
 平面的な画面処理が決して薄っぺらな平面では終わらず、深い奥行のようなものすら感じられるのは、この作家の視線が、そして神経が、画面の隅々にまで行き届いている、ということにほかならない。
 いわゆる古典的な遠近法などの手法とは無縁の格好で提示された、この作品。作家が狙う世界とは一体何か、などのことは、あまり重要ではない。要は、焦点が合うはずのない〈虚無〉の地平に焦点を合わせるという“逆説的”で困難な作業を一枚の作品として定着することに成功した、という事実。この事実の方が重要ではあるまいか。

 作品解説・小松康夫(高知新聞編集委員1995年当時)

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