■武内光仁■

〈テントで覆われた在りし日の遺物〉

 第36回の新象展に出品されたこの作品は、その前年に描かれた「砂漠の貝塚に発芽したものは」と“対”をなすものである。
 画面には、人間を連想させると同時に木の年輪を思わせる奇妙な存在感を持ったフォルム、無数の赤いマスク(仮面)、そして、不思議な植物などが主要なモティーフとして顔を出している。これは「砂漠の…」にも登場するキャラクターである。
 「砂漠の…」と異なっているのは、植物の色がグリーンに変わっていることであり、アメリカの国旗・星条旗がここでテントとして表現されていること。そして、これは大変重要なことだが、「砂漠の…」にはなかった〈緑〉の色が使われており、それが見る者に強烈な印象を与えるのだ。
 ここに描かれている世界は、アメリカの大いなる影響力の下、じっとうずくまって何事かに耐える日本人の姿を象徴しているのだろうか。
 日本的な精神性、精神風土、古くからの好ましい伝統などがアメリカ的なものに取って代わられたことを嘆き、そんな消え去ったものへの“オマージュ”、あるいは“鎮魂”の祈りを捧げているのかもしれぬ。古くからの日本人的な骨格をしっかりと持った純粋な日本人の悲哀…。
 赤、青、緑という組み合わせの難しい色を使いこなしているこの作家は、〈色彩の魔術師〉としての可能性も秘めているのではなかろうか。

 作品解説・小松康夫(高知新聞編集委員1995年当時)

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