この作家の特徴の一つに作品のネーミングが独特の味わいを持つ、ということがある。
例えば、この作品。別の作家なら「集積する記号」だとか、現代の予兆」だとか、「都会の風景A」など、一種、“帰納法的”なタイトルをつけるかもしれぬ。
武内光仁は、あえて、別の手法を採り、今回のようなタイトルを考えるのである。
それにしても、「記号がドン、ドン降って来る」でよさそうなものだ。普通の人間ならば、「ドン、ドン降って来る」で事は足りるのである。それを「ドン、ドン、ドン、ドン」と、ドンという言葉を4回も、しつこいまでに繰り返さなければならないのは、なぜだろう。作家の意図は奈辺にあるのか…。
繰り返す、重ねる、という行為によって〈狙い〉を強調することができる。
ドンを2回で終えるよりも、4回繰り返すほうが確かに、数字、記号の落下がより多く、より長く「続いている」ということを感じさせる。このあたりに作家の狙いが潜んでいるのではないか。
冷たい色が、澄み切った空間を予感させる画面に、数字を中心とするきらびやかな記号類が数多く登場する。連なって落下したり、重なり合って降ったりする数字に、例えば日本の経済的な状況を重ねて、“バブルの崩壊”を読み取るのも可能だろう。この作家がかつて体験したであろうと推察できる“辛い思い”それを記号で表現しているのではないか、とも考えることができるだろう。
作家独自の迫力ある構成への意欲と優れた装飾性、確かな描写力に裏打ちされた格好で、非常にシャープな画面を構築している。
作品解説・小松康夫(高知新聞編集委員1995年当時)
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